町なかポタリング
"繁盛川" と言われて何処の川かすぐに思いつく人など、いるのだろうか?勿論、地元の人は小さい頃に学校で習うだろうから知っているとは思うが、6年前にこの辺に引っ越して来た僕は、毎日の様に繁盛川を渡る橋の上を歩いていたのに、最近までこの川の名前を知らなかった。知ったのは先日、天白川の源流を探しに出掛けた話 を書く為に天白川の支流の名前を調べた時である。
繁盛川と書くと、10人中ほぼ10人は恐らく "はんじょうがわ" 或いは "しげもりがわ" と読むだろう。当然僕も最初は "しげもりがわ" と読んでしまったったが、これは "はんもりがわ" なのだそうだ。名古屋市のホームページ に書いてあるのだから間違いないだろう。
という訳で今回の愛車 (ママチャリ) での散歩は、この地元の町なかを流れる謎多き小さな川、繁盛川を遡ってみる事にした。
天白川と繁盛川の合流点 |
右側の大きい方の流れが天白川で、左手前から流れ込んでいるのが繁盛川である。
この川は、僕が住んでいる名古屋市天白区と、隣の日進市赤池町との境界にほぼ沿って流れている。"ほぼ" と書くのは、ほんの一部だけそうではない場所があるからだ。
これから川を遡って行くのでその方向で説明すると、右側 (概ね南西方向) が名古屋市天白区、左側 (概ね北東方向) が日進市赤池町である。従って、この写真を撮った時に立っていた場所は赤池町という事になる。
散歩を始める前に、位置関係を分かりやすくしておこう。
Google Maps より |
これがグーグルマップの衛星写真。繁盛川の川筋が画面に全て収まる様に、東西南北を左回りに30度ぐらいずらしてある。
左上に少し写っている川筋が天白川で、右下の緑に囲まれた暗い部分が、恐らく繁盛川の水源と思われる荒池。
しかしこれでは、それこそ地元の人間が辛うじて市境の点線を判別出来る程度だと思うので、次にグーグルマップのデフォルト地図を載せてみよう。
Google Maps より |
上の衛星写真と範囲は全く同じであるが、コースが分かりやすい様に、スタート地点である天白川との合流点と、ゴール地点の荒池を川筋に沿って赤い線で結んでみた。
繁盛川は約2㎞の流路の内、平針交差点から荒池交差点までのおよそ2/3ほどは県道56号線に沿って流れている。市境にするならそこそこ広いこの県道の方がふさわしい様な気がするのだが、実際は数十メートルの距離でつかず離れず流れている繁盛川が市境になっている。
Google Maps より |
これが、道程の前半部分。
河口から秋葉山慈眼寺の北辺りまでの衛星写真である。
左上の天白川から分岐して 珈食房るぱん平針店 という文字の下をくぐり、真横に向かっている二本線に挟まれた部分が今回の主役の繁盛川で、このぐらいの縮尺になるとその二本線が川に沿って整備された道路であるのがはっきりと判別出来る。
因みにその珈食房るぱん平針店の場所は、文字の上にあるオレンジ色のマークなので、天白区平針ではなく日進市赤池町である。本当にギリギリ、店の敷地の南側を繁盛川が流れているのだが、赤池店よりも平針店の方が名前の通りが良いという事なのだろう。鶴舞線の駅も赤池駅より平針駅の方が数倍 (直線距離で3倍強) 近いので、"平針店" を名乗るのは伊達ではない。
繁盛川の河口付近 |
これは繁盛川の河口から上流方向を撮った写真である。
少し先に見えるのが、繁盛川が天白川に注ぐ地点から遡って最初の橋である。散歩はまだ始まっていない。最初の橋があるのは河口から僅か20mの場所である。
この辺りは白い泡の様なものが浮いていてあまり水質が良いとは言えない感じだったが、完全に澱んでいる訳では無く、流れは緩やかだが確かにあり、魚が泳いでいるのも見ることが出来た。
ここから最初の橋までは、左側の道の方が川が良く見えるのでそちらを進む事にした。
河口付近から繁盛橋を望む |
名前も判らない(おそらく付けられてはいるだろうが)最初の橋まで来たので、そこから上流方向を撮ってみた。
流れは真っ直ぐで川幅は狭く、両側を高いコンクリート壁で挟まれた形になっているので、川というよりも用水路と言った方が相応しい気がする。
彼方に見える二つ目の橋が、梅森方向から平針駅前を通って運転免許試験場方向に抜ける、県道221号線が繁盛川を渡る橋である。
因みに、221号と呼ばれるのは平針駅南交差点までで、そこから南は県道ではなくなるらしく、221号の表示は消えてしまう。
橋の間は大体200mほどだろうか。半分くらいまで行くと221号を通る車の音がはっきりと聞こえて来て、町なかに出て来たことを実感する。
平針駅から日進市の梅森や本郷方面を往き来するバスが見えるが、この辺は信号のタイミングでむやみに渋滞する事が多い。この路地の向こう側から221号に出て来る数少ない車の為の信号まで何故かあるのだ。
繁盛川は川幅いっぱいまである水が穏やかに流れ、その上の橋では信号が変わる度に車がけだるそうにのろのろと動き出す。
繁盛川と寺山橋 |
221号から上流方向を望む。
そういえば、一つ目の橋にもこの橋にも名前が書かれていなかったが、二つ目のこの221号が通る橋は、繁盛橋という名前らしい。
しかし驚いたことに、橋の名前を調べる為に名古屋市のホームページとは別の資料を見ると、この橋のフリガナが "しげもりばし" となっていたのである。"はんもり" と "しげもり" 、川と橋の名前の読みが違っていても良いのかも知れないが、この場合はどちらかが間違っているのではないかと思う。
"しげもり" の方が普通だとは思うが、"はんもり" は名古屋市のホームページで括弧書きのふりがなとして明記されているのだから、そちらが間違っているとは考えにくい。
写真の向こうに見えるのが、河口から数えて三つ目に当たる寺山橋。
これが、僕が毎日の様に渡っている橋で、袂に建っているカトリック教会の向こうに 蟠住山 龍淵寺 がある。
この橋には、繁盛橋でさえ書かれていなかったのに、ちゃんと名前が書いてある。こんな風に、なぜか平仮名なのだが。
そういえが、"ばし" ではなく "はし" と表記するのはどんな意味があるのだろう。天白川に架かる橋の袂の表記も、全て平仮名で "はし" だった。
因みに、繁盛川に架かる橋の内、橋に直接名前の表記があったのは、僕は見た限りでは後で出て来るもう一つの橋とこの寺山橋の二つだけだった。221号の繁盛橋は別の資料に乗っていたのをたまたま発見して判ったのだが、その他の橋については未だに名前が判らずにいる。
全ての橋に名前はあるはずである。そうでなければ、工事の時に何と呼んでいたのか。
全ての橋に名前はあるはずである。そうでなければ、工事の時に何と呼んでいたのか。
天白川を遡った時は、両側の欄干の内、左に橋の名前、右に竣工した年月が書かれているパターンが多かったが、繁盛川では全ての橋でそれを見る事は出来なかった。
向こうに架かっている橋の上は県道58号(飯田街道)が通っている。これが河口から四つ目の橋である。
この川沿いの路地から58号に出て左(北東方向)へずっと行くと、前回訪ねた天白川の源流がある名古屋商科大学に辿り着く。
右(南西)に出ると、約50mで県道56号との交差点で、ここが平針交差点である。
地下鉄平針駅から地上に出た所にある交差点は「平針駅前交差点」で、県道221号と56号が交差し、名古屋記念病院が建っている大きな交差点は「平針駅南交差点」。元々の平針の中心は実はこちらだったと思えるのだが、現在は、56号を荒池方向からカーブして侵入してきた車がたまに事故を起こす、見通しが悪くて危ない交差点でしかない。
右(南西)に出ると、約50mで県道56号との交差点で、ここが平針交差点である。
地下鉄平針駅から地上に出た所にある交差点は「平針駅前交差点」で、県道221号と56号が交差し、名古屋記念病院が建っている大きな交差点は「平針駅南交差点」。元々の平針の中心は実はこちらだったと思えるのだが、現在は、56号を荒池方向からカーブして侵入してきた車がたまに事故を起こす、見通しが悪くて危ない交差点でしかない。
堰 |
県道58号を渡るとすぐ、繁盛川は右に左に緩やかにカーブしてS字を作る。その、うねって最も県道56号に接近する辺りでは、造形物と言って良いほど綺麗な堰を見る事が出来る。興味の無い人にとっては別に何という事も無いものであろうが、僕は先日の天白川での自転車の旅以来、とても堰に惹かれる様になった。
この、表面が水に濡れて黒光りしているコンクリートのレリーフと、その奥の鏡の様に静かな水面の美しさといったら...。
向こうに見えるのが、S字カーブが終わって川筋がほぼ真っすぐになった所にある五つ目の橋。右に出るとすぐに県道56号の平針欠下交差点、左に暫く行くと、赤池駅南交差点に出る。
この辺りは川下にある堰の為か、流れが特に緩やかになり、川底が生い茂る草で覆われている部分が多い。
周囲は民家の他、県道との間に中古車屋が2軒並んでいたりする。だいたい県道沿いのこの辺りは、カーディーラーやタイヤの販売店、塗装屋など、車関係の店が多く立ち並んでいる。
ここからも、川底の堰が作り出す綺麗な模様を見る事が出来る。
川は相変わらず高いコンクリート壁に挟まれ、水の流れは暗く沈んでいるが、それ故に、尚更少ない光を映す濡れた堰が美しく見える。
川は相変わらず高いコンクリート壁に挟まれ、水の流れは暗く沈んでいるが、それ故に、尚更少ない光を映す濡れた堰が美しく見える。
並木病院付近 |
右前方に並木病院の大きな建物が見えて来た。
この辺りは並木病院の敷地が河岸に隣接していて、右側の道は通り抜けが出来なくなっている為、そこから先も川に沿って進みたければ、五つ目の橋を渡って川の左側に移っていなければならない。
そうしておかないと、こんな風に右側の道は急に途切れてしまい、結局、五つ目の橋まで戻らなければならなくなってしまうのである。
さて、この辺で道程の後半をグーグルマップで示しておこうと思う。
画面上方左寄りのピンク色のマークで示されている並木病院までで、道程の約2/3までは消化していて、地図で見るとゴール地点と目される荒池が間近に迫っている。
並木病院の辺りで、何の為なのか分からない止水栓の様な物を目にしたので、目印がてら写真に撮っておいた。
この周辺は、鴨が浅い川床を歩いていたり、鯉が無数に泳いでいたりと、町なかの用水路の様な川にしては意外と自然を感じる事が出来た。清流とはお世辞にも言えない様な環境だが、水鳥や魚にとってはそれほど悪い環境ではないらしい。
暫し自転車を停め、iPhoneで幾つか写真を撮ってみる。
赤池南付近 |
これが、河口から数えて六つ目の橋。例によって名前は不明で、繁盛川沿いでは特に目印になる様な物は無く、56号に出ても名前の無いT字路の交差点に突き当たり、左に行っても赤池町の住宅街が広がっているだけという道である。
六つ目の橋の上から |
その橋から上流の眺め。
高く茂った枯れ草が水面を覆い、その隙間から辛うじて細い水の流れが覗いているといった具合であるが、確実に流れは続いている。
先ほどの止水栓の様な物があった場所で県道56号から道が合流して来て、この橋まではまた川の右側を行ける様になっていたのだが、この橋から先はまた途切れてしまっている。
七つ目の橋付近 (赤池南) |
そして、河口から数えて七つ目の橋の手前に、独特な形をした面白い堰が見えて来た。
少し離れた所から見ると、棚田の様に幾つかの段差が作られ、大小の丸い石がお地蔵さんの様に並べられている様に見えて、かなりユニークな眺めである。
しかしそれと同時に、洗剤のプラスチック容器などの家庭ごみが多数散らばっているのも見えた。
どうなっているのだろうと思い、近づいて行って真上から眺めてみると、丸みを帯びた六角形の水溜りが亀の甲羅模様の様に隙間無く組み合わされ、その間に石が並べられてコンクリートで固められていた。
堰 |
しかし、なかなか面白い造形なだけに、家庭ごみで汚されているのは非常に残念な光景だった。
七つ目の橋から八つ目の橋を望む |
河口から七つ目の橋の上から上流方向を眺めてみると、少し先に八つ目の橋が見えた。
地図を見てみると、この橋から右に出るとすぐに県道56号と交差する荒池交差点があり、その次の橋は、ずっと辿って来た繁盛川とこの川沿いの道自体が初めて56号と交差する地点に架けられている。
二つの橋の間で川は緩やかに右にカーブして56号に近付いて行き、その下を潜るのかと思いきや、グーグルマップの衛星写真では、橋に当たった辺りから川筋が追えなくなってしまう。
デフォルトの地図に切り替えてみると、極端に細くなってはいるが、川がある事を示す水色の線がその先に続いている。しかし20m程の所で二股に分かれ、どちらも中途半端な所で途切れてしまっている。
Google Maps より |
それと同じ部分を、上の実際の写真に近い角度に傾けてみたのが、下の大きなデフォルト地図である。
繁盛川が、八つ目の橋の向こうからは川幅が極端に狭まっているのが分かる。しかも、その細い川筋は、水源と思われた荒池まで届いていない。
これはいったいどういう事だろうと、気の急く思いで自転車を走らせた。
Google Maps より |
繁盛川とモチロ橋 |
すると、なんと八つ目の橋の下の暗がりで、排水溝の様な水路から水が流れ落ちていたのである。これは滝と呼んで良いのだろうか? そして、これが繁盛川の源流なのだろうか?
とにかく僕は橋の上に行ってみた。
この橋には、"もちろはし" という名前が明記されている。
繁盛川に架かる八つの橋のうち、橋に直接名前が書かれているのを僕が確認出来たのは、寺山橋とこの "もちろはし" の二つだけだった。
"もちろ" とは、この場所を含む荒池の東側一帯の地名で、正確には "日進市赤池町モチロ" とカタカナで書く。従って、橋の名前は "モチロ橋" で間違い無いだろう。
モチロ橋の上からも、先ほどの排水溝の様な所から水が流れ落ちているのは確認できたが、それより上流は地図で見たのと同じように、細い水路になって更に向こうの住宅地の中に消えてしまっているのである。
モチロ橋下 |
Google Maps より |
モチロ橋より上流 |
いくら川筋を追いたいと言っても、他人の家の敷地に無断で入り込む訳にはいかないので、取り敢えず川筋が地図から消えている地点と荒池を結ぶ線の延長線上に行ってみる事にして一旦繁盛川から離れ、荒池交差点に出てから左折して荒池沿いの散策コースの入口らしい所まで移動する。
|
Google Maps より |
散策コースに足を踏み入れると、右側が荒池、左側は急な下り坂の草むらになっていて、その麓にある、さっきまで細い水路の行方を追っていた住宅地の裏手が見えてくるのだが、その辺りの地面は荒池の水面よりも低く見えた。
道の左側、消えた川筋の先があると思われる方向を見てみると、そこには立入禁止の看板が下げられた鉄の柵があり、その先の草むらには、草が踏みしだかれた様な跡が一筋続いている。
これは川が流れた跡ではなく、名古屋市の職員が点検の為にここを行き来した跡なのではないだろうか。
恐らくその先に、繁盛川が最初に地上に顔を出す地点があるのだろう。その場所は、市の職員でなければ見る事は出来ないのかもしれない。
Google Maps より |
繁盛川の取水口 |
ここがおそらく繁盛川の取水口であり、この弁を動かす事により、繁盛川の流量を調節していると思われる。
荒池の水嵩が上がると、弁はより大きく開けられて繁盛川には普段より多くの水が流れ、それが平針で天白川に流れ込む。つまりここが、その大元の場所なのだ。
これで、今回の小さな旅は終了である。
川とその源流なのか、それとも、用水路とその取水口なのか、結果はかなり微妙だったが、一つの流れの出所を突き止め、この目で確認できたという点では面白い体験だった。
ところで、僕がこの話の最初の方で、繁盛川が一部だけ天白区と赤池町の間を流れていない部分があると書いたのを憶えているだろうか?
それが、正にここである。
荒池の周囲は、狭い部分もあるが全て名古屋市域に取り囲まれていて、そのほとんどが天白区、南側の一部が緑区になっているのである。
水のある風景はそれだけで絵になるものだが、自分が住んでいる町に、まさかこんな澄んだ風景があるとは思わなかった。なるほど、真冬のさなかに大きなカメラを携えた人々が集まって来る訳である。
荒池の周辺には前述した秋葉山慈眼寺や、針名神社の広大な杜、更には名古屋市農業センターを含む緑豊かな丘が連なり、それより南には、緑区の神の倉の住宅地が広がっている。
空は青く晴れ渡り、荒池の穏やかな水面では水鳥がゆっくりと羽を休めているが、陽のぬくもりは森の深い緑に遮られて僕の足元には届かず、寒々とした水面が光を反射するばかりである。
僕は繁盛川沿いの道を引き返さずに、林間を突っ切って行くコースを取って家路を急いだ。
市境の小さな川を行く・完
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